Feb 25, 2016
街の色
私が生まれたのは東京の北区駒込という街。ブロック塀が立ち並ぶ、細い路地の一角の小さな一軒家で、その家の様子はフィルターにかかった姿で目を閉じると思いだされる。お向かえに住んでいたTOYOMIちゃんという一つ上の女の子と一緒に遊んでいた記憶、おばあちゃんが作ってくれた赤いごはん(ケチャップライス)の味、ブロック塀に挟まれた路地からみえる小さなグレーの空・・・そんな懐かしいふんわりした場面が断片的に浮かんでは消えていく。
私の母が営んでいた美容室は上中里というところにあり、家からバスに乗って通っていた。そこは商店街の一角で、そのざわざわとした賑わいと、美容室の扉を開けると流れ出てくるパーマ液の匂いが五感をくすぐる。祖母に連れられてその美容室を訪れるのだが、その度にわくわくとした。何が起こるわけではないのだが、小さな少女にとって非日常のその風景は魅力的であった。
待合室のところに大きな木製の窓があり、待合のベンチに靴を脱いで立って、その窓から顔をだし、商店街に行きかう人たちの様子をずっとみているのが好きだった。くすんだ色の洋服を着たおじいさんやおばあさんが杖をつき、小さな子供が母親に手をひかれ、石を蹴りながら歩き、お兄さんが立ち止りショーウインドウを眺める。たくさんの人たちとたくさんの人生がひとまとめに盛り込まれた商店街を歩くたびに今でもノスタルジックな空気に包まれる。毎朝通るシャッターの閉まった静かな街も、夕暮れの灯りが灯ったお店から漏れる人の暖かさも、生きていると実感できる確かなものがそこにはある。一人ではなく、たくさんの人に支えられ、囲まれて生きている、ということを。
Posted in essay | Comments Closed