Feb 5, 2016
部屋の原風景
私はよく夢をみる。ほとんど毎日夢をみるが、あまり楽しい夢であったことはない。そしてその夢の中には昔の住んでいた「部屋」が度々現れる。その部屋は小学生だったころに住んでいた板橋の小さな戸建のリビングで、そこでその物語は繰り広げられる。そこには使い込んだソファがあり、昭和の時代のキッチンセットがおかれキッチンの横にダイニングテーブルがある。高校になったころにリフォームをして間取りもかわったのだが、いつもでてくるのは幼き頃の部屋なのだ。
小さな頃の目線は結構細部を追って記憶している。玄関の繊維壁のざらっとした肌触り、トイレの床の黒っぽい丸いタイル、階段下にあった洗濯機、ステンレスの浴槽と頼りなげな水量のシャワーヘッド・・・・その記憶は手にとるように思い出される。その記憶の中の家は今はなくなってしまっても確実に私の中で生き続ける。そして家の記憶とともに、そこで生活していた、祖母たち、よく泊まりに来た親戚のおばちゃん、若き日の父母や兄がそこには存在している。夢で昔の家を訪れると、大好きだった祖母に会い、もう一度会いたいと目覚めたときに胸が締め付けられる。
息子が社会人になり、所帯をもち、父親になったとき、その夢の中にどんな部屋の原風景が広がるのだろうか。それが懐かしくやさしいものであってほしい。仕事や離婚でさみしい想いをさせてしまったその空間が彼にとってつらいものになって欲しくないとわがままにも願ってしまう。念願の犬「ソラ」を飼って、この家に暖かい陽が灯った。ソラと私と一緒に過ごしたこの時間が、木のやさしいぬくもりとともに彼の原風景の中で懐かしく輝いてほしい、そして夢の中でこの家の灯りが心地よく彼を待っていてほしい、と。
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